INTERVIEW
2021.05.26

バンドグッズをファッションへ ー Bandmerchが目指すグッズのあり方|後編「制作への思い」

バンドグッズをファッションへ ー Bandmerchが目指すグッズのあり方|後編「制作への思い」

土江 海輝(ツチエ カイキ)
ファッション×音楽メディア『Bandmerch(バンドマーチ)』の代表。新卒でファンクラブ運営会社に入社し、4年間FCディレクターを担当。2021年4月に独立し、バンドマーチ合同会社を設立。

インタビュー前編はこちら

03

ただシンプルに、色んなバンドに色んなグッズを気軽に作ってほしい

── 「制作」の方はどのような感じでしょうか?

1番の特長は、1枚から制作できる点です。

納期も最短1週間ほどで対応します。

インディーズのバンドだと何百枚も作る必要はないので小ロット制作が適しているのですが、小ロットだと単価がかなり高くなってしまう業者が多く、制作してもあまり利益が見込めないのが現状です。

利益が見込める場合でも、多く作りすぎると在庫が余るし、少なく作りすぎるとすぐ完売となって機会損失になる。完売した後は、再販しても何枚売れるか分からないし、僅かな追加発注だと単価が高すぎて赤字になるので作ることができない。

そこでBandmerchでは、できるだけバンド側で在庫を抱えず、かつ、完売した場合はすぐに再販できるように、短納期かつ小ロット制作でもバンド側に十分利益が出るような形で制作を受けることにしました。

── 小ロットで安く早く作れるのはバンドにとって理想的ですね。
あとBandmerchでは、Tシャツデザインの無料相談も受けています。
僕自身、日本のバンT・海外のヴィンテージバンTはもちろん、アパレルブランドの新作Tシャツも日々チェックしています。その観点から、グッズ制作のアドバイス的なこともしています。
例えばジャケット写真を使ったTシャツなら、どこにジャケ写を配置するのか、バンド名は入れるのか、入れるならどこに配置するのか、ボディはどこのメーカーにするのか、色展開・サイズ展開はどうするのか、値段はどうするのか、何枚制作するのか、などなど。
相談する過程でのデザインイメージはすべてこちらで作成します。相談し終わった後には既にデザインが完成しているので、バンド側のデータ入稿なども必要ありません。
自分だったらそのグッズを着たいか着たくないかを、お客さん目線でバンド側に正直に伝え、どうしたらより多くの人に買ってもらえるのかを、まるでバンドのグッズ担当かのように話し合います。

グッズ制作にかかる手間はすべてこちらで対応するので、その分、音楽制作やライブ活動に専念してもらいたいと思っています。


── 入稿データも作ってもらえるのは楽ですね。ぶっちゃけBandmerch側はそれで利益は出るんでしょうか?
利益自体はもちろん出ますが、手間を考えると赤字になるケースはありえますね。笑

ただ、バンド側のニーズがあるのであれば、しばらくはこの形でやっていこうと思っています。 あまりにも厳しくなったら今より多少値上げする可能性はありますが、バンド側に利益を出したいというのが第一にあるので、大幅な値上げはしないです。

というか、ただシンプルに、色んなバンドに色んなグッズを気軽に作ってほしいんですよね。そして色んな人にバンドグッズを着てもらいたい。それだけです。バンドグッズってどこまでも自由でカッコいいので、それをより多くの人に知ってほしいです。

── グッズ制作のハードルを下げて、より多くのグッズを世に出したいということですね。
では、小ロット制作を実現するために、どのような制作方法を取られているのでしょうか?
小ロット制作に適した、トナー転写というプリント方法を採用しています。発色がきれいでプリント色の制限がなく幅広いデザインに対応できるのが特長です。シルクスクリーンだと、色数ごとに版代がかかってしまうので、どうしても小ロット制作となると厳しくなります。
僕が今着ているTシャツもトナー転写でプリントしています。僕がデザイン、プリントしたオール自前Tシャツです。
トナー転写でプリントしたTシャツ
あ、あともう1つ推しポイントがありました。

下北沢近辺なら送料無料です。Bandmerchの事務所が下北沢なので、僕が直接お渡ししに行きます。

普通の業者だと1枚だけ発注の場合でも送料が1,000円ほどかかるので、それだけで赤字です。Bandmerchなら、下北沢でライブするとき、スタジオ練するとき、遊びに来るときなどに直接商品をお渡しできるので送料がタダです。


── 送料がかからないのは結構大きいですね。
あとは、下北沢限定でグッズの分納もできるようにします。

「この日に下北沢でライブがあるから、当日に何枚納品して欲しい」といった要望に応じます。物販の販売まで全部自分たちでされているバンドマンの方って、ライブ当日、機材に加えてグッズも運ばないといけないので、荷物がパンパンで大変なんですよね。Bandmerchで作っていただいたグッズに関しては、うちが直接会場まで届けるので、少しでも楽な荷物でライブに臨んでほしいですね。

04

バンドの声を聞いてより良いサービスに

── 今後展開予定の「デザイン」と「販売」に関してはどのような構想があるのでしょうか?「デザイン」はさっきのTシャツデザイン相談とは違うんですか?
「デザイン」に関しては、イラストデザインのイメージです。

さっきのTシャツデザイン相談だと、ジャケット写真などのイラスト素材はバンド側に準備してもらう前提でした。今後はそのイラストデザイン制作もお手伝いできるようにする予定です。

具体的には、バンドとデザイナーのマッチング的なサービスを考えています。

バンド側は、デザイナーのポートフォリオを見て、気に入ったらデザインオファーができる。デザイナー側は、バンドの曲を聴いて、気に入ったらデザイン案を送ることができる。あとは、バンド側がデザイン募集をかけることができ、デザイナーがデザインコンペに参加できる、みたいなことも考えています。

先ほどご説明したMVが流れるページはここで役立ちます。
「デザイン」のフロー(予定)
この案が生まれた経緯として、Bandmerchを始めるにあたって、下北沢のバンドマン十数名にグッズに関するアンケートを取ったことがあり、
『デザイナーは毎回同じですか?』

という質問に対して、9割以上が『ほぼ同じ』と回答し、

『仮に自分好みのデザイナーが新たに見つかったとしたら?』

という質問に対して、同じく9割以上が『デザイン費が多少高くても依頼する』と回答しました。

つまり、より良いデザイナーを求めているバンドは多いけど、新しいデザイナーとの出会いがあまりないということが分かりました。
一方、デザイナーには音楽好きがとても多いと感じています。例えば美大出身の方は、制作中に聴く音楽に作品が影響されるという話も聞いたことがあります。Instagramなどで趣味で絵を描いている人の中にも、好きなアーティストのデザインをしてみたいという方はよく見ます。
であれば、より良いデザイナーを探しているバンドと、バンドのデザインをしたいデザイナーとの出会いを生み出せれば、双方にとって幸せなんじゃないかと思ったのが、マッチング案の経緯です。

── なるほど。
もう1つ考えているのが、バンド自身もデザイナーとして登録できるようにすることです。
アンケートを取っている中で、バンドメンバーがデザインしているバンドも一定数いることが分かりました。 なので、あるバンドが別のバンドのグッズデザインをするといった、リスペクトのあるコラボレーションが生み出せれば面白いなと思っています。
── バンド同士でデザインし合うのは面白いですね。ファンの輪も広がりそうですし。
デザインのクレジットもより明確になるのでそこも良いと思っています。
今、参加いただけるデザイナーの方を絶賛募集中です。この記事を読んで気になったデザイナーの方は、ぜひお問い合わせ、あるいはSNS DMまでご連絡いただけると嬉しいです。

アマチュアの方も大歓迎です。 バンドへのアンケートで、『アマチュアでもデザインが良ければ依頼しても良い』と100%のバンドが回答されました。普段仕事としてはやっていないけど、趣味で絵を描いているみたいな人は、ぜひお気軽にご連絡ください。


── もう1つの「販売」に関してはいかがでしょうか?
現在、Bandmerchには通販機能がありません。サイト上でグッズを紹介して、購入いただく場合はバンド側のECサイトに飛んでもらう形です。それを今後、Bandmerch上でもEC決済できるようにする予定です。
1つ案として考えているのが “売り切れないグッズ” です。

「制作」の部分でもご説明しましたが、Bandmerchなら1枚から安価で制作可能なので、再販も柔軟に対応できます。 とはいえ、「よし、再販しよう」となるのは、一定数の再販ニーズが見込めてからです。そうすると、ファンにとっては今欲しいのに買えないという状況が発生します。 欲しいと思ったタイミングで購入できず、後日再販されても「やっぱいいや」となることも起こり得ます。

そこをBandmerchのEC上では、ずっと販売中にし、売り切れが起こらない状態にします。購入されたらそのままこちらで1枚分制作し、発送まで対応する形です。

ただ、「売り切れてしまいそうだから早く買おう」という限定感や、「すぐ完売してしまった」という飢餓感が購買欲を高めることもあると思います。そこに対しては、バンドのオフィシャルECよりもBandmerchの方を多少高い値段にしたり、発送まで時間をかけたりすることで、オフィシャル購入と差をつけるのもアリだと思います。その辺りはバンド側の希望に合わせます。

「制作」と「販売」とのフロー比較(予定)
── 欲しいと思ったグッズが廃盤だったというのは良くあるので、多少値段が高くなっても買いたいというファンは一定数いそうですね。
ですよね。僕も廃盤で欲しいTシャツはたくさんあるので、多少高くなっても全然買いますね。

今はメルカリとかで定価よりも高く出品されている場合も多いですが、オフィシャルから新品で買えるなら絶対そっちの方が良いですしね。バンド側にも売上が還元されますし。

でもまぁ自分のために1枚追加で作ってくれたって考えると、多少高くなるのも納得いただけるのではないかと。

いまご説明した「デザイン」と「販売」に関しては絶賛準備中です。 ニーズがなさそうならやめるかもしれないですが。笑

バンドの方はぜひご意見いただけると嬉しいです。

「制作」「デザイン」「宣伝」「販売」すべてにおいて、今後もバンドの声を聞いてより良いサービスにしていきたいですね。
05

バンドTシャツは “自己表現の1つ”

── 最後に、土江さんにとってバンドTシャツとはどのようなものでしょうか?
僕にとってバンドTシャツは、“自己表現の1つ” ですね。「自分はこれが好きなんだ!」というのを自然に世に発信できる数少ないアイテムです。
そして着ることで気分を高揚させてくれます。好きなアパレルブランドの新作を着るのももちろんテンションは上がりますが、バンTはまた違った高揚感と特別感があります。 音楽を身に纏っている感覚というか。好きなバンドの一部になれる感覚。それを自分の個性として表現でき、特別になれる感覚。お気に入りのバンTを着て街中を歩くとそのような心持ちになれます。
また、バンTはコミュニケーションツールでもあります。 日頃、同じようなバンT好きの人から声をかけられることがあります。そこから好きな音楽の話になり、コミュニケーションのきっかけとなったりします。 バンT好きでない人からも「そのTシャツオシャレだね」と言われ、「バンドグッズなんだよ」と答え驚かれることも多いです。このように、バンTを介して会話が生まれやすいのも魅力の1つです。
あとは単純にバンドの応援になる点も大きな魅力です。音源や公演で収益を上げづらくなった現状では、グッズ収入というのはバンドの音楽活動において重要な活動資金になっています。グッズを買うことで、僅かでもそのバンドに貢献できているんだという誇らしい気持ちにもさせてくれます。
そんな素晴らしいバンドTシャツを少しでも広めるために、Bandmerchは活動し続けていきます。
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