INFO
2024.12.27
dancing clothing #17 ライブレポート(文:横堀つばさ)
2024年12月11日(水)、東京・下北沢LIVE HAUSにて『dancing clothing #17』が開催された。『dancing clothing』は、ファッションを起点に音楽の発信に取り組んでいるファッション×音楽メディア・Bandmerchが主催する『BAND-T POPUP』の連動企画。2024年8月に東京・ハラカドにて開催された『BAND-T POPUP #7』の関連イベントとなった今回は、水平線とエスキベル、MASAKOの3組が出演。本格的な冬が訪れた東京に、早くも漲る春の生命力を到来させた一夜の様子をレポートする。
水平線
白い息が立ち上っていく冬の朝、誰もいない砂浜から眺める海の向こうでは、青とオレンジが混ざり合っていた。京都発の4人組・水平線の音楽は、じんわりと胸を温めるそんな景色のように芽吹を予感させる。安東瑞登(Vo,Gt)の柔らかな弾き語りから「三月」で滑り始めたこの日のライブは、春風の吹く季節を喚起する「トーチソング」へ発展し、冷たい外気を纏ったままのコートに少しずつ熱気を加えていく。
水野龍之介(Ba)が中央に陣取るセッティングは、川島無限(Dr)と手を組んでどっしりとした中軸を形成するのみならず、その中央線を折り目にしたシンメトリーを完成させ、田嶋太一(Vo,Gt)と安東のツインボーカルにより濃い香りを放たせる。アンプもステージ中央に面を向ける形で配置されており、舞台上で研ぎ澄まされたサウンドスケープが、塊となって放出される感覚。そんなサウンドメイキングの逞しさを存分に発揮したのが、ライブ中盤のブロックだった。田嶋のアルペジオがボリュームを上げるにつれ、4人のプレイもアグレッシブに変化していった「潮の目 (interlude)」で広大な光景をどっしり描くと、『NEW HORIZON』の流れさながらに「Throwback」へ攻め立てていく。地声ギリギリで張り上げる田嶋のロングトーンが<こだまするように叫ぶよ>の1行を体現したかと思えば、「颱」では<どこへ行ける? どこまでも行ける>と意気揚々と宣言。
この段落で示された4人の野心は「旅するロックンロール・バンド」を掲げる水平線の漂うような印象や鷹揚としたイメージとは一見相反するように思える。しかし、彼らの根底には自分たちが新たな地平を拓いていくという確かなエネルギーが充満しており、くるりを筆頭に敬愛する京都の音楽シーンを基盤としながらも、その目は幅広いレンジを捉えているのだ。こんな中盤戦で渦巻く欲望を発散させた後は、干したての布団の香り漂う生活の歌「Downtown」でフィニッシュ。田嶋のギターに合わせてリフを口ずさむ安東の姿も目に焼き付いており、親しみ深い朗らかさと揺るぎない堅さを両立した45分だった。
【セットリスト】
三月
トーチソング
あの日のユニバース
かすみ草
潮の目
Throwback
颱
ロールオーヴァー
Downtown
水野龍之介(Ba)が中央に陣取るセッティングは、川島無限(Dr)と手を組んでどっしりとした中軸を形成するのみならず、その中央線を折り目にしたシンメトリーを完成させ、田嶋太一(Vo,Gt)と安東のツインボーカルにより濃い香りを放たせる。アンプもステージ中央に面を向ける形で配置されており、舞台上で研ぎ澄まされたサウンドスケープが、塊となって放出される感覚。そんなサウンドメイキングの逞しさを存分に発揮したのが、ライブ中盤のブロックだった。田嶋のアルペジオがボリュームを上げるにつれ、4人のプレイもアグレッシブに変化していった「潮の目 (interlude)」で広大な光景をどっしり描くと、『NEW HORIZON』の流れさながらに「Throwback」へ攻め立てていく。地声ギリギリで張り上げる田嶋のロングトーンが<こだまするように叫ぶよ>の1行を体現したかと思えば、「颱」では<どこへ行ける? どこまでも行ける>と意気揚々と宣言。
この段落で示された4人の野心は「旅するロックンロール・バンド」を掲げる水平線の漂うような印象や鷹揚としたイメージとは一見相反するように思える。しかし、彼らの根底には自分たちが新たな地平を拓いていくという確かなエネルギーが充満しており、くるりを筆頭に敬愛する京都の音楽シーンを基盤としながらも、その目は幅広いレンジを捉えているのだ。こんな中盤戦で渦巻く欲望を発散させた後は、干したての布団の香り漂う生活の歌「Downtown」でフィニッシュ。田嶋のギターに合わせてリフを口ずさむ安東の姿も目に焼き付いており、親しみ深い朗らかさと揺るぎない堅さを両立した45分だった。
【セットリスト】
三月
トーチソング
あの日のユニバース
かすみ草
潮の目
Throwback
颱
ロールオーヴァー
Downtown
エスキベル
2番手を務めたエスキベルのショータイムは、宇宙と交信するかのような音色が重力を取り除く「rotate」でキックオフ。4人の足元を照らす白色のライトが舞台を一面の銀世界に染めると、心拍音を想起させるベースから「迷う/戻る(regret)」を束ねる。<間違って相まっていくことだろう><僕たちは合わさっていけるのかな>と推量の終助詞を重ね、先の見えない逡巡を伝える同ナンバーでは、ボリュームを下げ、呟くがごとく歌う石井悠翔(Gt,Vo)と成嶋慶太(Dr)のフラジャイルなコーラスワークが絡み合いながら、小さく揺れ動く感情の機微を可視化していく。
続く「心の海」のリバーブサウンドでもズレや悩みを表象し、「迷う/戻る(regret)」と手を組んでモヤモヤとした鬱屈を刻んだところで、「Highvision」をドロップ。デカルトの「我思う、故に我あり」を彷彿とさせるリリックで自問自答の末に時空間が変化しても揺るぎない自己の存在意義を確かめると、クライマックスではさっぱりとしたサウンドと共に注がれていた愛を自覚する。曖昧な感情を白黒つけることなくそのまま提示してきた流れを受けて本曲が披露されたことによって、喉につっかえていた骨が取れた時のようにスッと1つの問題が解決した感覚があった。
こんなほのかな爽快感を強固にしてくれたのが、MCを経て補填された「並行(axis)」。ここまでの独りごつボーカリゼーションとは異なり、太い芯が通った石井の歌声が<愛はそこにある><我はここにある>と断言を続けていく。厚い雲が空を覆う冬の気配はどこかどんよりとしているが、エスキベルの楽曲はうっそうとしたムードを纏いながらも答えを見つけ出そうとするプロセスに視線を向けてきた。しかし、「並行(axis)」において僅かばかりの自信を持てたことで、灰色の雲から天子の梯子が降りるみたいに春の光が差したのではないか。ラストに鳴らされた「現像」が歌に焦点を当てたアッパーな1曲であること、寒色ばかりだった照明が黄色へ移り変わったことは、雪解けの到来を間違いなく告げていた。
【セットリスト】
rotate
迷う/戻る(regret)
心の海
Highvision
Little Easier
発達(childhood)
並行(axis)
現像
続く「心の海」のリバーブサウンドでもズレや悩みを表象し、「迷う/戻る(regret)」と手を組んでモヤモヤとした鬱屈を刻んだところで、「Highvision」をドロップ。デカルトの「我思う、故に我あり」を彷彿とさせるリリックで自問自答の末に時空間が変化しても揺るぎない自己の存在意義を確かめると、クライマックスではさっぱりとしたサウンドと共に注がれていた愛を自覚する。曖昧な感情を白黒つけることなくそのまま提示してきた流れを受けて本曲が披露されたことによって、喉につっかえていた骨が取れた時のようにスッと1つの問題が解決した感覚があった。
こんなほのかな爽快感を強固にしてくれたのが、MCを経て補填された「並行(axis)」。ここまでの独りごつボーカリゼーションとは異なり、太い芯が通った石井の歌声が<愛はそこにある><我はここにある>と断言を続けていく。厚い雲が空を覆う冬の気配はどこかどんよりとしているが、エスキベルの楽曲はうっそうとしたムードを纏いながらも答えを見つけ出そうとするプロセスに視線を向けてきた。しかし、「並行(axis)」において僅かばかりの自信を持てたことで、灰色の雲から天子の梯子が降りるみたいに春の光が差したのではないか。ラストに鳴らされた「現像」が歌に焦点を当てたアッパーな1曲であること、寒色ばかりだった照明が黄色へ移り変わったことは、雪解けの到来を間違いなく告げていた。
【セットリスト】
rotate
迷う/戻る(regret)
心の海
Highvision
Little Easier
発達(childhood)
並行(axis)
現像
MASAKO
この日の最後を飾ったのは、『dancing clothing #9』や『Lullaby #4 -風と共に去りぬ-』などBandmerch主催のイベントに多数出演してきたMASAKO。西村竜哉(Vo,Gt)と萩本あつし(Gt)が目を見合わせて頷くと、2本のギターがゆっくりと重なり「勝手にしやがれ」で幕が上がった。間髪入れずに「MASAKOです。よろしく!」「ロックンロールタイム!」とハツラツに告げながら「Cry Cry Cry」「Nitty」を連投し、活動を始めたばかりだという4人体制でのMASAKOの盤石っぷりを早々に示していく。ざらついた手触りで哀愁を漂わせる西村の歌声とハイトーンかつ甘美な萩本のボーカルの対照性もさることながら、真っ赤な夕陽に照らされた荒野を連想させるカントリーチックなモードから大人の渋みを演出する物憂げな雰囲気までを醸成するリズム隊とのコンビネーションもバッチリで、西村と萩本による音楽プロジェクトとして始動したMASAKOがバンドとして歩み始めていることを実感する。
「来年あたりから力を入れて活動していくので、遊びに来てもらえたら」と嬉しい宣言を終えて突入したフィナーレでは、MASAKOのフォーキーな昔懐かしさとネクタイを締めた大人の色気を描く両面を炸裂させた。軽快なカッティングにつられてミラーボールも回り始め、タンバリンもアンサンブルに合流した「メトロ」で、踊り明かしたくなること必至のフロアを形成すると、「MASAKO流、スーパーラブソングを歌って帰ります」の言葉を添えて「傷だらけの天使」でピリオドを打つ。<おまえの顔も今は思い出せない>と薄れていく記憶に何とか手を伸ばしながら、幸福だった日々が残した寂しさと甘い記憶に思いを馳せる締めくくりだった。
また、この日のライブで印象的だったのは「Cry Cry Cry」や「ベイビーイッツオールライト」など、プププランド、Layne時代の楽曲もプレイされていたこと。イントロが鳴る度に快哉を叫び、動画へ収めようとカメラを構えるファンの様子は、彼らの楽曲が確かにリスナー1人1人の傍にあり続けていたことを証明すると同時に、歌が残り続けていくことの尊さを感じさせた。MASAKOという新たな名を手にして生み出される楽曲たちは、どのように我々の生活に寄り添ってくれるのだろうか。MCでの宣言通りであれば、来年のMASAKOの活動がこの期待に応えてくれるはずだ。
【セットリスト】
勝手にしやがれ
Cry Cry Cry
Nitty
ベイビーイッツオールライト
バンジョー
サンゴーズダウン
カサブランカ
時計
メトロ
傷だらけの天使
「来年あたりから力を入れて活動していくので、遊びに来てもらえたら」と嬉しい宣言を終えて突入したフィナーレでは、MASAKOのフォーキーな昔懐かしさとネクタイを締めた大人の色気を描く両面を炸裂させた。軽快なカッティングにつられてミラーボールも回り始め、タンバリンもアンサンブルに合流した「メトロ」で、踊り明かしたくなること必至のフロアを形成すると、「MASAKO流、スーパーラブソングを歌って帰ります」の言葉を添えて「傷だらけの天使」でピリオドを打つ。<おまえの顔も今は思い出せない>と薄れていく記憶に何とか手を伸ばしながら、幸福だった日々が残した寂しさと甘い記憶に思いを馳せる締めくくりだった。
また、この日のライブで印象的だったのは「Cry Cry Cry」や「ベイビーイッツオールライト」など、プププランド、Layne時代の楽曲もプレイされていたこと。イントロが鳴る度に快哉を叫び、動画へ収めようとカメラを構えるファンの様子は、彼らの楽曲が確かにリスナー1人1人の傍にあり続けていたことを証明すると同時に、歌が残り続けていくことの尊さを感じさせた。MASAKOという新たな名を手にして生み出される楽曲たちは、どのように我々の生活に寄り添ってくれるのだろうか。MCでの宣言通りであれば、来年のMASAKOの活動がこの期待に応えてくれるはずだ。
【セットリスト】
勝手にしやがれ
Cry Cry Cry
Nitty
ベイビーイッツオールライト
バンジョー
サンゴーズダウン
カサブランカ
時計
メトロ
傷だらけの天使
こうして幕を下ろした『dancing clothing #17』。なお『BAND-T POPUP #7』の連動イベントとしては、2025年1月12日(日)に東京・下北沢Flowers Loftにて『dancing clothing #18』、1月22日(水)に東京・渋谷近未来会館にて『dancing clothing #19』の開催が決定している。日常を彩るファッションアイテムと音楽が待ち受ける『dancing clothing』、そしてBandmerchの活動から目が離せない。
取材・文=横堀つばさ
写真=Kaiki Tsuchie (Bandmerch)
dancing clothing #18
▼日程:2025.1.12(日)
OPEN 11:30 / START 12:00
▼会場:
下北沢Flowers Loft
(アクセス:東京都世田谷区北沢2丁目24−5)
▼出演:
HALLEY
Khamai Leon
Geloomy
▼タイムテーブル:
12:00 - 12:40:Khamai Leon (40min)
13:00 - 13:40:HALLEY (40min)
14:00 - 14:40:Geloomy (40min)
▼チケット:
[前売] ¥3,500 + 1D 【1/12】一般チケットはこちら
dancing clothing #19
▼日程:2025.1.22(水)
OPEN 19:00 / START 19:30
▼会場:
渋谷近未来会館
(アクセス:渋谷区渋谷1-11-1 ヒューリック渋谷美竹通りビルB1)
▼出演:
えんぷてい
幽体コミュニケーションズ
▼タイムテーブル:
19:30 - 20:30:幽体コミュニケーションズ (60min)
20:50 - 21:50:えんぷてい (60min)
▼チケット:
[前売] ¥3,800 + 1D 【1/22】一般チケットはこちら