INTERVIEW
2024.7.10

ハシモトタクミ(Khaki)とデザイン|前編「アートワークとMV」

ハシモトタクミ(Khaki)とデザイン|前編「アートワークとMV」
インタビュー・編集・撮影:Kaiki Tsuchie (Bandmerch)

Khaki
Khaki(カーキ)は東京を拠点に活動する5人組イマーシブ・アートロックバンド。メンバーは、 中塩博斗(Vo,Gt)、平川直人(Vo,Gt)、下河辺太一(Ba)、 橋本拓己(Dr)、黒羽広樹(Key)。2018年結成、2021年より本格始動。同年に1stアルバム『Janome』を発表した。日本語ロックの情緒と海外インディを思わせるアグレッシブなサウンドが同居した音楽性、さらに淡々としつつも温かいボーカルにより、早耳リスナーから人気。2023年は3月に2ndシングル「Undercurrent」をリリースし、8月13日(日)に初のワンマン公演を東京・新代田FEVERにて開催(ソールド・アウト)。さらに<SUMMER SONIC 2023>に“出れんの!?サマソニ!? 2023”枠での出演が決定。12月には3rdシングル「お祝い/萌芽」をリリースし、2024年5月に自主企画「前期定例」を渋谷WWWにてゆうらん船を迎えて開催(ソールド・アウト)。7月の「後期定例」では渋谷WWW Xにて崎山蒼志を迎えて開催予定。その他数多くのイベントに出演しており勢いを増している。

 
── では今回は、Khakiのドラマーであり、かつ、アートワークやMV、グッズ等のデザインを手掛ける橋本さんに、"音楽" ではなく "デザイン" についてのインタビューをさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
橋本: よろしくお願いします。個人でのインタビューは初なのでちょっと緊張しますが・・。
── 個人的にこのインタビューはずっと前からさせていただきたかったので、やっと実現できて嬉しいです。

というのも、Khakiというバンドは音楽が素晴らしいのは勿論なんですが、アートワークやMV、ライブのフライヤーなどのビジュアルデザインもKhakiの大きな魅力だと思っていて。どれも、どこか目を惹きつけるものがあるなと。

それらのデザインを手がけている橋本さんの頭の中を今回のインタビューで少し覗きたいなと思っています。

橋本: ありがとうございます。お願いします。
01

デザインを始めるきっかけはKhaki

── 早速ですが、橋本さんがデザインを始めたきっかけを教えてください。
橋本:きっかけは完全にKhakiです。それまでは特にデザイン的なことは一切やってきませんでした。

1st EPの「Thirteen」のアートワークでは僕はそこまで噛んではなくて、1st Singleの「車輪」からデザインをやってみた感じですね。

車輪の曲を聴いて自分の中でこういうイメージだなと思って、スマホのアプリでバンっと作りました。

1st Single「車輪」アートワーク(2021.9.16)
ノイズ的なデザインなんですが、出来上がったデザインをメンバーに見せたところ、黒羽(Key)に「このデザインってどういう意味なの?」と聞かれたんですが、マジで意味がなくて(笑)。
次はもう少し "意味" を持たせたものをと思いデザインしたのが、1st Albumの「Janome」のジャケットです。
1st Album「Janome」アートワーク(2021.11.28)
Janomeもアルバム全体のイメージが割とノイズというかちょっと歪んでいて、そこは背景のザラザラ感で表現しています。それで、タイトルがJanomeで、かつ、当時はメンバー4人だったので、四つねじ蛇の目をイメージして4個のオブジェクトを並べました。メンバーそれぞれ音楽の趣味とかキャラクターも違うので、形や色もバラバラにしています。
── このアートワークめちゃくちゃ良いですよね。僕がKhakiを知った少し後にこのアルバムが出て、このアートワークでさらに気になり、曲を聴くと「最高じゃん!」となったのをよく覚えています。これが人生2個目のデザインって、すごい才能ですね。
このデザインは何のソフトで作ったんですか?
橋本: このタイミングからAdobeを使い始めました。ただ、これはIllustratorじゃなくてPhotoshopで作ったんですよ(笑)。 グラフィックはIllustratorが適しているとかそのときは知らず、完全に手探りで作りました。Janome以降はIllustratorで作っています。
── Janomeのアートワークのメンバーの反応はどうでした?
橋本: 好感触でしたね。
「え、これ橋本作ったの?すごいじゃん」的な。素直に嬉しかったです。

これ以降はデザインに関してはメンバーからあまり何も言われなくなりました(笑)。

なので、車輪のデザインが本当は1作目なんですが、気持ち的にはJanomeが1作目って感じではあります。


── 同じ頃にThe Girlと車輪のMVも出してますよね?
企画、編集、監督すべて橋本さんかと思いますが、これとかももしかして初めてですか?
橋本: そうですね。全部初めてです。Premiere(動画編集ソフト)も初めて触りました。
撮影は友達に撮ってもらって。別にカメラやってるとかでもないので、僕が「こんな感じで撮って」ってお願いしながら進めました。
── すごいですね(笑)。初めてとは思えないクオリティです。
The GirlのMVのあの手作り感というか空気感が個人的にすごく好きで、要所要所に歌詞ではない字幕が入ってくるところとかも遊び心があってとても面白いなと。
「The Girl」Music Video (2021.6.11)
── 次のMVが車輪だと思うんですが、このMVも謎のダンスが印象的で面白いですね。
KhakiのMVはメンバーが出ているものが多いと思うのですが、車輪に関してはメンバーさんは出ていないですよね?
橋本: メンバーは出ていないですね。車輪は中塩くんが作った曲なので、中塩くん(Vo,Gt)に「どういうMVが良い?」と聞いたら、こういうのが良いって、ただおじさんが踊ってるだけのMVを見せてもらって。そのイメージを元に作りました。
当時僕が学芸大学駅近くの居酒屋でアルバイトしていたんですが、ここいいじゃんってなって、近くの人の家の前で撮りました。許可を取って。
「車輪」Music Video (2021.9.30)
── なるほど。 あの謎のダンスとか、電車や道路の映像も要所要所に入ってくる感じとか、映像自体の意味を考えてしまうんですが、車輪のアートワークと同様、特に意味はない感じですか?
橋本: 意味はないですね。基本的にKhakiのMVはほぼ意味はないです。
ただ、MVの構図、カット割りはかなりこだわっています。自分では気付いていなかったんですが、僕のMVは全体的にカット割りがかなり多いみたいで。
「お祝い/萌芽」のMV撮影を、普段MV監督もやっている須田諒くんにお願いしたんですが、須田くんに「カット多いね」って言われて。どうやら普通の倍くらいあるみたいで、これは編集に時間かかるねって(笑)。なので、1つのMVを作るのに他の人よりも時間がかかっているかと思います。
意識してカットを増やしているわけではないのですが、自分が気持ち良いタイミングでこう入ってきてほしいって進めていくと、すごいカット数になっちゃうっていう(笑)。
02

シンプルでカッコ良いのが1番好き

── 話題をアートワークの方に戻しますか。次は2nd EP「頭痛」ですね。
まず上の方の「頭痛」を漢字・カタカナ・ひらがなでジグザグに描いているデザインがとても面白くて好きです。
2nd EP「頭痛」アートワーク(2022.9.14)
橋本:頭痛のジャケットに関してはこのジグザグが1番初めに出来たんです。頭がズキズキして痛い感じを表現しています。
で、このEPを作る前のバンド会議で、ちょっと重ためで暗めの作品にしようというのがあったんで、背景色は黒かなと。
で、頭痛の4曲どれも割と暗いんですけど、どれも似た曲がないのでそれを4色のグラデーションにしていて、それがKhakiという大きな丸の中にはあるっていう。・・・わかりますかね?(笑)
── なんとなくわかります!(笑)
橋本: なんかまぁ色々言いましたけど、見た目のインパクトですね(笑)。
僕はこういう丸の形とかが好きなんですよ、基本的に。で、かつシンプルなのが好きですね。あまりごちゃごちゃしていなくて、シンプルでカッコ良いのが個人的には1番好きです。
あ、あと頭痛なので薬のカプセルをモチーフにしようっていうのが初期の構想にあって、楕円の形になったというのもあります。
このアートワークは自分的に結構気に入っていますね。
── 僕もこのアートワーク大好きです。あと、CDのフィジカルとしての良さもあるなと思っていて。マットな紙の質感だったりとか、あと歌詞カードのデザインも面白いですよね。
橋本: そう、頭痛の歌詞カードに関して、ファンの方含めあまり言及してくれてないなって(笑)。
僕的にはジャケットも好きですけど、中の歌詞カードが結構お気に入りで。
「頭痛」歌詞カード
(しばらく2人で歌詞カードを見ながら談義の時間。文字にすると長くなるので割愛。ぜひご購入いただき細部へのこだわりをお楽しみください。)
── フィジカルを出すか出さないかというこのご時世で、せっかく出すならこういう細部までこだわっていきたいってことですよね。
で、この後Undercurrentの新聞デザインのやつであったり、8cm CDとかに繋がっていくかと思いますが、フィジカルへのこだわりについて聞かせてもらってもよいですか?
橋本: 僕が中学生や高校生のときって、サブスクがないので、CDを買ったり、TSUTAYAで借りたりしていて。最近はサブスクが主流なので、友達にCDを貸したり借りたりするのがなくなったのがすごく寂しくて。 僕的には好きなアーティストのCDを買ったりすることがとても嬉しかったし、 CDを買うという体験が減ってきている今だからこそ、逆にCDを出したいというこだわりがあります。
タブロイドに関しては、初めはZINEとCDを別で出そうと思ってたんですが、一緒にした方が見た目がカッコ良いなと。
8cm CDに関しては、見た目のインパクトと、周りのバンドが出していなかったという点で、いつか出したいとずっと思っていたのですが、Undercurrentに合うなと思い採用しました。
2nd Single「Undercurrent」リリース記念タブロイド
2nd Single「Undercurrent」(8cm CD)
── 最後に、最新作の「お祝い/萌芽」についてですが、さっきの頭痛の歌詞カードに通ずる文字を使ったアートワーク。それを歌詞カードとしてではなくクリアケースに直接プリントして、ディスクの表面は裏面と同様の無地で反射するデザイン。ここまでシンプルで削ぎ落としたデザインは中々見ないですね。
3rd Single「お祝い/萌芽」アートワーク(2023.12.13)
橋本: これも8cm CDと同じく、ずっとやりたかったやつで。お祝い/萌芽のタイミングでハマった感じです。
細かい話ですが、これ実物で写真を撮ると、CDの盤面に文字が写っちゃってこんなに綺麗に読めないんですよ。 なので配信とかで使われているジャケットは、クリアケース単体とCDだけで撮った写真に、イラレで文字を入れています。
03

ただのオマージュにしない

── MVの方も続きを聞けたらと思います。
The Girlと車輪の次は「Kajiura」ですかね。KajiuraはKhakiのMVの中で1番再生回数回ってますよね。
「Kajiura」Music Video (2022.7.3)
橋本: 回っていますね。 Kajiuraに関しては、作った平川(Vo,Gt) に「どんなMVが良い?」と聞いたら、The Strokesの「Reptilia」みたいな感じが良いって返ってきて。
「The Strokes - Reptilia」Music Video (2004)
── 確かに言われてみれば寄りの感じとか似ていますね。
橋本: そうですね。でも寄りは絵力があるので元々好きですね。
僕の中では、このMVが元なんだろうなとか、この映画のこのシーンを持ってきたんだろうなとか、露骨に分かってしまうMVがあまり好きではなくて。 KajiuraのMVも背景に色をつけてとか、The StrokesのMVにもっと寄せることってできると思うんですけど、それをやっちゃうと面白くないなと。 自分なりのオリジナリティや案を足すことで、ただのオマージュにならないようにしています。
── 次は頭痛の2曲のMVについて聞けたらなと。先に出たのが「Overtone」ですかね。Khaki初のアニメーションMVですよね。
「Overtone」Music Video (2022.8.20)
橋本: そうです。アニメーションがまちだりなさんで、歌詞のテキストは僕が入れています。
ずっとそうですが、僕は作った人のイメージを大切にしたいので、この曲も作った中塩くんに「どんなのが良い?」と聞いて、そしたら「アニメーションが良い」って返ってきて。
多分Radioheadみたいなのを言ってるんだろうなと思って、個人的にまちだりなさんが好きだったので、雰囲気が合いそうだなと思いお願いしました。
「Radiohead - Paranoid Android」Music Video (1997)
歌詞のテキストに関しては、 前半は黒字で、ラスサビの絵が赤くなるところは白字にしたり、一部文字を大きくしたりすることで、 MVにより動きを出して、見ている人を飽きさせないようにしています。
── 「子宮」のMVに関しては、お寺で撮影されていますよね?これはどういう経緯でしょうか?
「子宮」Music Video (2022.10.23)
橋本: これは作った中塩くんではなく、平川が54-71のMVを持ってきて、それが古い家だったんですよ。 で、お寺いいんじゃない?となり、平川の友達の実家がお寺で、お寺借りれるよってなって(笑)。僕と平川と2人でロケハンに行って、いいねってなりました。
「54-71 - 69 my pheromone up」Music Video (2006)
── あのお寺雰囲気あって良いですよね。子宮のMVは、イントロのドラムの"カッ"ってなるところで「子宮」というタイトルが一瞬出てきたり、「あれ、どうしたんだっけ」という歌詞が唯一出てきたりとか、そのあたりのギミックが個人的にとても好きですね。
橋本: 子宮のMVを作っていたタイミングで「バトルロワイヤル」の映画を観ていたんですけど、いきなり画面がバンって黒くなって、文字がボンって出てくるのが超カッコよくて。これやっちゃおうって(笑)。
僕結構、最近観た映画のこのワンシーンがカッコ良いとかで入れるみたいなことが多くて。 好きなアーティストに影響を受けるみたいなのがよくあると思うんですが、僕の場合、"この人がめっちゃ好き" っていうのがないんですよね。 色んなところから自分が良いなと思ったものをスポンジみたいに吸収している感じ。
── ある特定のアーティストのオマージュとかではなく、自分のフィルター・美学を通して、これは良い・これは微妙みたいなのをジャッジした上で、要素を加えたり削ぎ落としたりして最終的なアウトプットが出来上がる、という感じですね。
それはMVだけでなく、橋本さんのクリエイティブ全般に共通していると。
Khakiって "このバンドっぽい" というのがあまりなくて、それはメンバーみんな個性的で趣味がバラバラなので、それ故、曲ごとに異なる面白みが出ているように思うのですが、MVやアートワークに関しては、橋本さんのそういった多様なアウトプットが作品ごとの個性を出しているのかなと思いました。
これからのKhakiの作品が一層楽しみです。
橋本: ありがとうございます。
── 最後に「お祝い/萌芽」のMVに関して聞けたらと思います。これはコンサートホールでの撮影で、2曲で1つのMVになっていますよね。
「お祝い/萌芽」Music Video (2024.3.1)
橋本: これは僕発信ですね。Puma Blueのホールで演奏しているライブ映像があるんですが、それを観てカッコ良いなと思って。
MVを撮るにあたって色んなホールを調べて、見た目的にもすごくしっくりきたのがこのホールです。
初めは2曲分けて撮ろうと思っていたのですが、ホールのレンタルが10時間借りられるとなって、これで1曲だけ撮るのは勿体ないなと思い、じゃあ2曲続けて撮っちゃおうと。 2曲連続で入っているMVってあまりないから、話題にもなるなって。
「Puma Blue - A Late Night Special」full film (2021)
── ホールでのMVですけど、普通のライブMVとは違ってカメラのアングルが面白いですよね。 椅子とかをグラフィカルな背景として撮影しているのも好きです。
あと、最後のエンドロール。他のMVでもエンドロールが入ってるのがあると思うんですが、KhakiのMVって全体的に映画っぽいなと思っていて。
さっきKajiuraのところで、特定のアーティストからの影響はないという話があったと思うんですが、その中でも、さっきのバトルロワイヤルみたいに、橋本さんがどういう作品を観てきて、どういうエッセンスを吸収してきたのかというのを具体的に聞かせてもらえたらなと。
橋本: 了解です。ちょっとその前にタバコ休憩いいですか?(笑)
── もちろんです(笑)。ここから先は後編としましょう。
04

大人が真剣にふざけているのがすごく好き

インタビュー後編は後日公開!